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十月七日

  • takashimorijiri
  • 2023年10月7日
  • 読了時間: 3分

更新日:2023年10月19日

猟銃所持のための検査を受けに精神科にきていて、待ち時間が長いので所持のための教習申請の書類を書き、飲み屋で知りあったひとにすすめられた、いしいしんじの短編集を読んでいた。

今朝、ふと2016年から2018年あたりの日記を読みかえしてみた。まったく酷い有り様で、どうしようもない青年がそこにいた。たしかに自分に似ているがまったく違う人間なのだが、それでもやはり自分ということはたしからしく、引き継いでいるものもたくさんあり、なんだ大して変わってないのかもな、と思うとなぜか気持ちが沈んでいった。

その青年はあらゆるものごとで彷徨していて、つまりさまよっていて、いろいろ考えてはいるようなのだが、何一つ具体的なものにならず、つまり何もしておらず、何もできず、本は読んでそこそこ知識はあり、頭もまわるようだが、それはそこそこ程度のもので、何かを感じさせるが、きわめてふつうの典型的なこの文系ダメ青年は、きっとこのまま何もなさず、愚かなままに生きていくだろうと、まるで他人の人生を眺めるように読んでいた自分が、ああおれか、と頭のなかでいった。まるで小説を読むように日記を読みながら、たしかにこれはよくある文学だなと思ったが、それは大げさか、とも頭のなかのわたしはいった。

ぼくは急に何もする気がおきなくなった。ぼくはやはりあの時と同じように無能な男であり、ということを考えはじめてしまい、何をしてもダメでどうしようもないような気がしてきた。けれども彼の営みそれ自体は文系青年にありがちとはいえ、世間的な常識とかけはなれているという意味では興味深く、面白いと思わなくもないため、彼は不安かもしれないが、ぼくはちっとも不安にならなくなり、むしろ変なやつだなと頭のなかで笑った彼もまたいた。もし彼と今飲み屋でばったり会ったら何かいうことができるだろうか、とも考えた。先輩として?先輩風をふかされることが嫌いな彼にとって、おれはうざいよくわからない何もしていない男にみえるだろう。興味をもたないかもしれない。社交辞令的なことを二言三言かわしてそれきりかもしれない。

もし彼が同じ匂いをわたしに感じて、同族嫌悪的自己防衛を乗り越え、聞く耳をもったなら、今ふと思いついたのだが、君はいいよ、それでいいよ、ダメだけど、そこがいいんだよ、よーしらんけど、というだろう。それくらいのことだが、彼はきっと励まされたような貶されたような気分になり、うっせえな、おっさんとは思うものの、そのまま、というかそもそもぼくが何をいおうといわなかろうと、そのままぐだぐださまよっていくのだろう。なんだか元気がでてきた。

 
 

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