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十二月十九日

  • takashimorijiri
  • 2022年12月19日
  • 読了時間: 2分

更新日:2023年1月30日

早朝、新聞を配達していてタイヤを溝に落としてはまってしまった。雪が降り窓に張りついて視界が悪いなかだったのに油断した。ラジオのワールドカップ実況に注意を奪われていたのもある。アルゼンチンが優勝し、メッシがチームメイトやスタッフに囲まれてハグしたりキスしたりしている様子が描写されそのことばに喚起され歓喜の渦を眺めるように浸っていたその時間きっかりに車はラインを越えオフサイドの判定を受けることになる。ピー!と笛の音が聴こえたのだから間違いない。しかしそれは雪に空回りする悲痛なタイヤの音だったのだが。

自宅近くだったので軽トラに乗り換え配達をすませ、車を救出しようと試したもののやはり駄目だし一人じゃ危ない。試合をおこなうには十一人必要なのだと諦め、夜明けをまってから出直し、がっつりふさいでしまっているその道の先の農家の方に協力を求めることにして帰って寝た。

起きたらまあまあいい時間で湯をわかしコーヒーをいれトーストにチーズとベーコン、目玉焼き、ピーマンなどで朝食をとり、洗濯をして読書して歯を磨いて車をとりにいった。

車は溝を抜けでていた。先の農家の方がやってくれたのだと思いピンポンを鳴らし事情を話すと違うのだという。もしかしたらブルがやってくれたんじゃないか?といわれ、ブル、とは?と思ったものの長居は無用、早々に立ち去った。

ブル、牛?この地方に伝わる民話か何か?

ブル、ブルドック?この地方に伝わる民話か何か?

ブル、ブルジョワ?この地方に伝わる民話か何か?

どれも笠地蔵風には思えないし、そもそも善行などした記憶が一切なかったので除雪車のブルドーザーのことだろうと判断した。何も言わずただただ助けてくれるなんてかっこよすぎるよ。ありがとう、ブル。後日礼をするかどうかはわからないが、邪魔だったからどかしただとぶっきらぼうにいう髭面のおっちゃんの姿が目に浮かぶ。ありがとう、ブル。


 
 

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